「せっかく届いた声を形にしたいが詳細が掴めない…」悩める大阪のバッグメーカー・コーエイが、なぜ“お会計の救世主”を生み出せたのか?【言語化支援事例】

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    大阪府で「KABAG(カバッグ)」というブランドを展開する株式会社コーエイ。

    多くの地方メーカーと同様、確かな技術力とユニークなアイデアを持ちながらも、それを「誰に」「どのような言葉で」届けるべきか、その最適解を模索していました。

    今回ご支援させていただいたのは、新商品「KABAG Clinic」のMakuakeプロジェクトページの構成と、そこに至る開発ストーリーの言語化です。

    SNSに届いた「名もなき声」から始まったプロジェクトは、ある対話をきっかけに、単なる「便利な通院バッグ」という枠を超え、多くの人の“心の平穏”を守るプロダクトへと進化しました。

    良い商品はあるのに、なぜか手応えがない。そんな悩みをお持ちの企業様にこそ読んでいただきたい、対話と発見の記録です。

    目次

    「良いものを作れば売れる」の限界

    プロジェクトのきっかけは、プロダクト開発担当の林さんの元に届いた1通のダイレクトメッセージ(DM)でした。

    「僕は障がいを持っていて、障がい者手帳などを携帯しやすいバッグを作って欲しいです」

    KABAGシリーズを愛用するお客様からの、切実な要望でした。林さんはすぐに返信を送り、詳細なニーズを聞き出そうと試みましたが、残念ながらそこで連絡は途絶えてしまいました。

    通常であれば、「縁がなかった」と諦めてしまう場面かもしれません。しかし、林さんの心には強く引っかかるものがありました。

    「連絡は取れなくなったけれど、この悩みを持っているのは彼一人だけではないはずだ」

    病院の受付で、診察券が見つからずに焦る経験。お薬手帳を忘れて取りに帰る手間。

    林さんご自身も「実はかなりのズボラで整理整頓が苦手」だと自認しているからこそ、その不便さは痛いほど想像できました。

    「この『病院でのアタフタ』をなんとか解決したい」
    「せっかく届いた声を形にしたい」

    情熱はある。解決したい課題も見えている。

    しかし、具体的にどのような機能に落とし込み、それをどう伝えれば、あのDMをくれた彼のような人々に「これは自分のための商品だ」と思ってもらえるのか。林さんは、使命感と焦燥感の狭間で、ひとり答えを探し続けていました。

    2時間の壁打ちで見つけた「本当の価値」

    ご相談を受けた私が最初に取り組んだのは、商品のスペックを整理することではなく、林さんが感じている「違和感」や「現場の気配」を言語化することでした。

    林さんは、連絡が途絶えた後も諦めず、SNSを通じて広く悩みを募集していました。すると、患者側だけでなく、病院スタッフからも「会計時に困っている患者さんをよく見る」という声が集まり始めていたのです。

    さらに、議論が熱を帯びたのは、地域のショッピングモール(イズミ/ゆめタウン)のバイヤーから寄せられたという、あるリアルな意見について話が及んだ時でした。

    林さんはふと、そのバイヤーの言葉を思い出してこう言いました。

    「バイヤーさんが言うには、病院帰りに毎日スーパーに寄るお客様も多いそうなんです。でも、お財布が診察券やカードでパンパンになっていて……。『レジ前は、次に並ぶお客様の目もあるので慌てる方が多いですね』と。」

    その瞬間、私の頭の中で全ての点と点が繋がりました。私は林さんにこう問いかけました。

    「林さん、このバッグが解決するのは、『収納場所がないこと』ではありませんね」

    お客様が本当に恐れているのは、モノが入らないことではない。「後ろに人が並んでいるプレッシャーの中で、モタついてしまう自分」への恥ずかしさや焦りなのです。

    病院の受付やスーパーのレジ前で、冷ややかな視線を感じながらバッグをガサゴソと探る、あの数秒間の恐怖。このバッグの真の価値は、大容量であることではなく、「焦らずスムーズに行動できることで、心の平穏を保てること」にあると確信しました。

    私たちはここで、商品の定義をガラリと変えました。

    単なる「収納バッグ」から、整理整頓をあらかじめ準備してくれる「コンシェルジュのような存在」へ。対話によって、プロダクトの魂が定まった瞬間でした。

    「伝わる言葉」への翻訳と実装

    「心の平穏を守るコンシェルジュ」というコア・コンセプトが決まれば、Makuakeのページで伝えるべき言葉も自然と変わります。

    これまでは「ポケットがたくさんあって便利」「収納力抜群」といった機能面のアピールになりがちでした。しかし、それでは「整理整頓が苦手な人」には響きません。なぜなら、彼らは「ポケットが多くても、どこに何を入れたか忘れてしまう」からです。

    そこで私たちは、あえて「機能」ではなく「行動の変化」に焦点を当てた言葉を選びました。

    • キャッチコピー:「探しモノが、パッと出る。」
    • コンセプト表現:「もうガサゴソしない」「整理整頓を教えてくれるコンシェルジュみたいな通院バッグ」

    「探しモノが、パッと出る。」という言葉は、レジ前での焦りを解消したい人々の心にダイレクトに届きます。また、林さん自身が「ズボラなバッグ研究家」であることを隠さず、むしろ強みとして打ち出しました。

    「診察券ホルダーごと取り外して受付に出せる」
    「バッグの中で迷子になる鍵を、紐を引っ張るだけで救出できる」

    これらは全て、几帳面な人ではなく、ズボラな人だからこそ思いつく「楽ちん術」です。

    スペックの羅列ではなく、「あなたの通院の憂鬱を、このバッグがどう解消するか」というストーリーとして、Makuakeのプロジェクトページを再構成していきました。

    数字以上のインパクト

    Makuakeでのプロジェクト公開、そして一般販売へと進んだ「KABAG Clinic」は、単なる新商品以上の成果を会社にもたらしました。

    最大の成果は、「名もなき声」から始まった企画が、大手企業のバイヤーをも巻き込む商品へと進化したというプロセスそのものです。

    SNSでの悩み募集、そして「レジ前でのお客様の様子」というイズミのバイヤーからの助言。それらをコンサルティングの場を通じて整理し、商品設計に反映させたことで、病院での「受付」から、帰りの「買い物(レジ)」までの一連の行動をスムーズにする、生活に寄り添った設計が完成しました。

    「自分たちの思い込み」で作るのではなく、顧客やパートナーの「声」を翻訳して形にする。

    この成功体験は、KABAGというブランドが今後さらに地域や顧客に愛されるための、大きな指針となったはずです。

    クライアントの本音

    プロジェクト終了後、開発担当の林さんからいただいた言葉が印象に残っています。

    「『世の中の不満を解決したい』と追求してきましたが、実は私自身がズボラなんです(笑)。だからこそ、病院の受付でバッグをガサゴソするあの焦り、その悩みを一人でも多くの人からなくしたかったんです。自分ひとりでは、機能の説明ばかり考えてしまっていたと思います。このバッグで、通院の日の憂鬱さがほんの少しでも『楽ちん』に変われば嬉しいです」

    自分自身が一番のユーザーであり、一番の理解者である。けれど、近すぎるからこそ、その「本当の価値」には気づきにくいものです。第三者との対話は、その盲点に光を当てる作業でもあります。

    あなたの会社にも、当たり前すぎて気づいていない「宝物」が必ずあります。技術はある、想いもある。けれど、言葉だけが見つからない。そんなもどかしさを感じているなら、まずは一度、壁打ち相手として私たちを使ってみませんか?

    雑談のような対話の中にこそ、ブレイクスルーの種は眠っています。あなたの商品の「隠れた価値」を、一緒に見つけにいきましょう。

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