「高価格帯のボディタオルは受け入れられない」と諦めかけていた繊維企業が、なぜ目標606%を達成できたのか?【言語化支援事例】

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    兵庫県で2012年に創業した繊維製品企画会社「中村屋」。ホテルアメニティやお風呂グッズの企画・卸売を手がける同社は、初のBtoC向け自社ブランド商品として「和紙ボディタオル」を開発し、クラウドファンディングで目標達成率606%、支援総額606,901円という成果を上げました。

    「技術には自信がある。けれど、その価値が市場に伝わらない」

    これは中村屋に限らず、多くの地方企業が抱える共通の悩みではないでしょうか。

    本記事では、一人の経営者が抱えていた「業界の常識」という名の足枷を、対話によってどのように外し、ヒット商品へと昇華させたのか。その「言語化」のプロセスをドキュメンタリーとしてお届けします。

    「良いものを作れば売れる」の限界

    相談に訪れた中村社長の表情には、確かな自信と、それと同じくらいの焦りが滲んでいました。

    中村屋はこれまで、ホテルアメニティなどの企画・開発を通じて、日本の職人たちと深い信頼関係を築いてきました。しかし、ボディタオル市場の現実は過酷です。

    確固たるブランドが存在しないため、常に激しい価格競争にさらされ、コストダウンのために製造拠点は次々と海外へ移転。その結果、国内の優れた職人技術が失われつつある現状に、中村社長は強い危機感を抱いていたのです。

    「職人の技術を守るためには、下請け仕事だけでなく、自分たちで値を決められる自社ブランドが必要です」

    そう熱く語る一方で、社長の言葉には迷いもありました。

    「でも、現場では『高価格帯のボディタオルなんて売れない』と何度も言われてきました。それに、和紙のタオル自体は珍しくない。市場にあるのは綿との混紡ばかりですが、それでも『和紙は硬い』というイメージも強いんです」

    日本の職人技を結集した「和紙糸95%」のボディタオルを作りたい。しかし、業界の常識が「それは無謀だ」と囁く。

    良いものを作りたいという情熱と、売れなかったらどうしようという不安。プロジェクトは、誰にこの商品を届ければいいのか、その「宛先」を見失っていました。

    2時間の壁打ちで見つけた「本当の価値」

    転機は、開発会議(壁打ち)の最中に訪れました。その場には私と社長の他に、もう一人、男性が参加していました。

    「そもそも、このタオルを本当に必要としているのは誰だろう?」

    私たちがターゲット像について議論していた時、その男性が自身の「旅の悩み」をポツリと語り始めたのです。

    「僕は国内外問わず旅行が好きで、よく手ぬぐいを持っていくんですが……実は不満があるんです。手ぬぐいは薄くていいけど、一度濡らすとなかなか乾かない。濡れたままバッグに入れるのが嫌なんですよね」

    さらに、彼の話は核心へと近づいていきます。

    「あと、海外のホテルってシャワーの水圧が弱いことが多いじゃないですか。手ぬぐいで体を撫でても、なんだか洗った気がしなくてスッキリしないんです」

    その瞬間、場の空気が変わりました。

    「乾かない不快感」と「洗った気がしない不満」

    この二つの悩みを聞いたとき、中村社長がハッとした表情で言いました。

    「……それなら、このタオルで解決できるかもしれない」

    社長がこだわっていた「和紙糸95%」というスペック。これは、単なる数値の自慢ではありませんでした。

    一般的なタオルよりも圧倒的に「乾きやすい」という特性。そして、独特のシャリ感が生み出す「しっかりとした洗い心地」。

    それが、旅行者のリアルな悩みを完璧に埋めるピースだったのです。

    社長は言いました。
    「タオルは生き物なんです。だからこそ、職人の勘が必要で」

    扱いが難しく、通常は敬遠される和紙をあえて95%も使い、職人の勘で編み上げる。その苦労こそが、「旅先のシャワーでもしっかり洗いたい」「すぐに乾かして移動したい」という、ユーザーにとっての最高の体験価値を生み出していたのです。

    「伝わる言葉」への翻訳と実装

    私たちは、ターゲットを「旅行・サウナ好き」に定め、コンセプトを根本から再定義しました。

    単なる「高品質な和紙タオル」から、「旅の荷物を減らし、最高の洗い心地を持ち歩くトラベルギア」への転換です。

    • ユーザー視点での「機能」の再解釈
      • 「吸水性が高い」という表現に加え、「洗うと拭くを一枚で完結」という利用シーンを提示。
      • バスタオルを持たずに済む=「荷物のコンパクト化」というメリットを打ち出す。
      • 海外旅行の実体験から得た「ループ付きで即乾燥」「生乾き臭からの解放」という訴求も追加。
    • 固定観念を「強み」へ変換
      • 「和紙は泡立たない」という常識に対し、「和紙糸95%だからこそ、乾きやすさと泡立ちを両立」と主張。
      • 混紡糸が一般的な市場で、「95%」という数字は圧倒的な機能性の証明。
    • 選びやすさの設計
    • 「和紙=硬い」という不安を払拭するため、好みに合わせて選べる2タイプを用意。
    • 経年変化を楽しむ「ヘチマ」と、最初から柔らかい「ココナッツ」。
    • 素材感を直感的にイメージできるネーミングを採用し、ユーザーが自分の好みを投影できるように。

    数字以上のインパクト

    クラウドファンディングの結果は、当初の予想を大きく上回るものでした。

    目標達成率は606%。支援総額は60万を超え、「中村屋」初のBtoC商品は華々しいデビューを飾りました。しかし、数字以上の成果が中村屋もたらされました。

    プロジェクト終了後、大手百貨店からイベント出店の依頼が急増。催事での評価も極めて高く、低迷していた売上に歯止めがかかりました。

    何より大きかったのは、「技術の証明」ができたことです。

    不可能とさえ言われた和紙素材を、独自の編み機と職人の勘で製品化した事実は、製造工程における技術的な話題として業界内でも注目を集め、新たな独自の技術構築という副産物までもたらしました。

    価格競争に巻き込まれる「その他大勢のボディタオル」から、ストーリーと機能で選ばれる「ブランド」へ。中村屋は、ユーザーとの対話を通じてそのポジションを確立したのです。

    クライアントの本音

    プロジェクトを振り返り、中村社長はこう語ってくれました。

    「『和紙では難しい』『高価格帯は売れない』……そんな常識にとらわれず、原材料や技術の最適化を繰り返した末に、ようやく自信を持てる商品が生まれました。この商品を通じて、海外の大量生産では決して実現できない日本の職人技術、ものづくり精神を多くの人に感じてもらいたいですね」

    自分たちにとっては「当たり前の技術」が、視点を変えるだけで「誰かの救世主」になる。

    中村屋の事例は、ターゲット(ユーザー)の解像度を高めることで、商品の価値が一変することを証明してくれました。

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    「良いものは作っているけど、誰にどう伝えたらいいかわからない」

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